ぜんぶを染め上げて
2022/08/10
――ぎっぎっ、ぎしぎし……と、安ホテルのベッドが律動に合わせて軋んだ音を立てる。部屋の中を満たすように、その音とくぐもった彼女の吐息が響く。
普段は『声を抑えないで』と思いきり感じられるように指示しているのに、今日に限って『今日は声、ちょっと我慢してみよっか』なんて言ったのは俺の方だ。きゅうきゅう、ぎゅうぎゅうと締め付けてくるナカが、イきたいとせがんで来るようで思わず口元が緩む。|初《﹅》|め《﹅》|て《﹅》から敏感すぎるほど敏感で、俺の言葉と与える快感を素直に受け取る彼女の身体は、もうすっかり学習してしまったらしい。膣イキの感覚も、どこをどうされたら気持ちいいのかも、何でされるのが一番気持ちよくなれるのかも。……一から十まで、ぜんぶ。俺が貰って、俺だけで染まっていく。
潤んで切なげに細められた瞳が、こちらをじっと見上げる。右手で必死にシーツを掴んで、左手は食い縛った口に押し当てて。最後の一手がもらえないまま、絶頂させてもらえずにゆるい甘イキを繰り返された身体は、もう我慢の限界だろう。ふっふっ、と荒い獣のような吐息の合間に、抑えきれなかった嬌声がときどき混ざるそれは……ひどく倒錯的な感覚がした。
焦らされて焦らされて、限界まで燻らされた快感のタネを自分で拾い上げるように、もう先ほどからずっと、俺の動きに合わせて彼女の腰はゆらゆらと揺れている。乱れた呼吸の中、必死に俺の呼吸に合わせて反らせた喉を鳴らして息を吸う様が、嗜虐心を煽るように身を灼いていく。ジリジリと削られた理性を必死に押し留めながら、俺も途切れ途切れに問いかけた。
「っは、ふふ……久遠ちゃん、もう限界〜ってカオしてる……♡ んっ♡ すっかり気持ちいいの、覚えちゃったもんね……っ♡」
ついこの間まで処女だったのに、と揶揄するように笑ってみせると、ひくひくと膣内が痙攣してより一層食いつかれる。弄ってすらいないのに触って欲しそうにぴんと主張した胸の先端と言い、初めて抱いたときもイくまで言われた通り自分で自分の足を抱えていたほど従順な性格の彼女は、与えられる快感を覚えるのも早かった。誰にも染まっていない、純粋で無垢な彼女を俺だけが変えられるという事実に、悦びの混じった電流が背中をゾクゾクと駆け上っていく。
ぽろ、と目尻を流れていく涙を拭ってやると、喘鳴混じりに名前を呼ばれた。
「ッ〰〰、ち、ひろさ……っ♡」
「ん、ぁは……思い出しちゃった?初めて、シたときのこと」
まあ俺も忘れたりしないけど、とちいさく溢すと汗で額に張り付いた髪を避けてやる。乱れた髪に隠れていた、緑の瞳が綺麗に覗く。
いつも綺麗で澄んだ瞳が、俺だけを見て俺だけを求めて……普段にはない熱と涙で潤んで蕩けて、本能的な欲を溶かして見上げてくるのを見るのが好きだ。職業柄色んな相手と関係を持ってきたけど、こんなに満たされるセックスができる相手は、彼女しかいない。俺が久遠ちゃんのことを好きで、彼女も同じように好いてくれているから……という理由も大きいけれど、俺たちの身体の相性は抜群に良かった。
「あー、ホント……かぁわいー♡ おまんこも、目も……んっ♡ ぜーんぶ、素直なんだもん……♡ はぁ、んぅ……そんなカオして、男煽って……さっ♡」
ぐりぐりと最奥に先端を圧しつければ、ガクガクと震える腰が限界を訴えてくる。堪えきれずに伸ばされた腕が、俺の手をぎゅうと掴む。その手ですら、快感に戦慄いてしまっていた。
「ァ♡ぁ、あ〰〰〰……♡♡」
明滅するような視界の中、思わず声を漏らした彼女の身体を、腕を引いて無理矢理起こす。脚の上に座らせると、縋るように首に手が回された。肌の上を汗で滑りながら、必死でしがみついて抱きしめて来るその仕草さえ、愛おしい。
「ホント、あの日……逃げずに、ちゃあんと言ってよかった……っ♡ こんなに敏感で、感じやすいんだもん♡ ン、っはぁ♡ 久遠がAVなんかに売られてっ、俺以外の誰かでこんなぐずぐずになってる様子なんか……見たくない、し……♡」
気持ちよくないセックスで傷付くのを見るのも嫌だったが、今ではそれよりもあり得たかもしれない……彼女があの日、引き止めてくれなかったら俺が選んでいたかもしれない選択の方が怖かった。
「ほーら、もう声出していいから……っ♡ 誰のなにでどうしてほしいのか、ちゃんと言って?かわいい声で聞かせて、よ……っ」
細い腰とお尻を無造作に掴んで限界まで引き抜くと、遠慮なしに思いきり一番奥を穿つ。ばちゅん、と一際大きな音がして、彼女の喉から言葉になりきれなかった、甲高い声が漏れた。
「〰〰、ッ〰〰……♡♡ ひぅ……♡」
「んー、聞こえない……よっ?んっ、ん♡ ちゃんと目を見て教えて、久遠ちゃん♡ じゃなきゃ……一番気持ちいいの、もらえないよっ……♡」
すり、とお尻を撫でながらとんとんと、下から彼女のいいところを突き上げる。きゅっと肌とナカを撫で上げるたび、素直に反応する身体を追い立てていく。自重も加わって先ほどから吐息の合間に「ぁ」「ぅあ♡」「ァ〰〰……♡♡♡」と次々と、涎とともに溢れる声に気を良くしながら、ほらほら、と弱い部分ばかりを次々に責め立てる。Gスポット、ポルチオ、子宮口を連続で叩けば素直な身体は跳ねっぱなしだ。きゅうきゅうと締め付けてくる食い縛り方にも遠慮がなくなってきて、久遠ちゃんの限界が近いのが伝わってくる。もう無意識に俺の脚に勃ちきったクリを擦り付けて、イきたがっていることに彼女は気づいているのだろうか。
「……ちひ、ろさ♡ っひァ、ぁ♡ ちひろ、さの……っ、ン、んっ……♡ おちんぽ、で……ぉく、いっぱいシて……くださ♡」
恥ずかしげに、けれどしっかりと彼女の言葉で……目元まで赤く染め、息絶え絶えに間近で俺の目を見つめて、気持ちいいのと俺だけでいっぱいになった彼女のおねだりに、思わずぺろりと口唇を舐めた。ふやふやにふやかした可愛い恋人は、恥ずかしくても俺の求めるままに答えを口にする。つい先日まで淫語どころか、キスすらも初めてだったのに。加速度的に染まってくれるいじらしさが、どんどん生まれる欲に歯止めを効かなくしていく。欲に忠実で、我が儘な俺を。甘やかして、受け入れて。どんな風にしても、受け留めてくれるから。
――際限なくなって、どんどん我が儘になってしまう。いつか彼女を壊してしまうんじゃないかと、思うほど。
「よく言えました♡ ほらっ、もう俺に身体預けちゃっていいから……いっぱい感じて、気持ち良くなってる久遠ちゃんを見せて……♡」
また限界まで引き抜いて、浅いところをカリで刺激してやりながらそう笑う。ひぅひぅと呼吸を溢し、縋るように俺の胸元に顔を埋めた彼女を、あやすような声音で誘導する。
「あっ、こーら。気持ち良くなってる表情、ちゃんと俺に見せて……♡ 隠すのはダメ、俺だけちゃんと見て?」
「ぅ♡ ァ、んっ♡ ……っは、はひ……♡」
「そうそ、いい子♡ ほらもっと身体預けて……♡ おっぱい擦れてきもちーね、久遠ちゃん♡」
耳元で囁けば、「うぅ、ぅ〰〰……♡」と呻くような声が返ってきた。どろっどろに蕩けた表情が、言葉なんかより如実に彼女の裡にある快感を肯定していく。
ひくひくと収縮とその間隔が短くなっていくのをナカで感じながら、弾んでいく声音で問い掛けた。
「ね、もうイきたい?教えて、久遠……♡」
「〰〰……ッ、イきた……ぃ♡ っは、ァ♡ 千弘さん、とっ♡ いっしょに……イきた、いっ♡ んぁ♡ ……ひぅ♡ ちひろ、さ……がっ、いい……ッ♡♡」
気持ちいいのを求めて——自分から腰を揺らしておきながら、必死に快楽の奔流に抗って。涙と涎でぐちゃぐちゃで、俺しか見えていない熱っぽい瞳で真っ直ぐに射抜いて——俺の恋人は、初めて身体を重ねた日から、必ずこうして強請ってくれる。
〝俺がいい〟――、〝俺と一緒にイきたい〟……と。
……あの日、早くキミのナカを滅茶苦茶に突きたいと疼いていると言いながら。俺ひとりで気持ちよくなるんじゃダメ、ふたりで一緒に気持ちよくならなきゃ勿体ない、と。そう言って彼女をじっくり融かして、骨の髄まで愛してあげる——なんて嘯いた俺は、あの日から久遠のくれるこの言葉で、多幸感すら感じられる行為を赦されている。
……彼女のくれるこの言葉は、受容だ。俺の愛を受け入れて、ぜんぶで受け留めて。理性をかなぐり捨てて、俺にこの上のないしあわせをくれる、|引き金《トリガー》のような受容の合図。
本能的に俺の望む言葉を察しているのか、あの日以来——|望《﹅》|み《﹅》を聞かずとも、俺の余裕を根こそぎ奪っていくように吐かれる言葉。反射的に、ぐっと彼女の腰を掴む手に力を込める。
「いい、よ……っ♡ 全力でナカ、犯してあげるから……っ♡ 今日も一緒にイこ、久遠ちゃん♡」
逃げられないように、腰を抑えて。これから訪れる快感に期待して震える膣内に、思いきり奥まで自身の熱を穿った。ずちゅん、という鈍い音と同時に……溢れた彼女の愛液がぱたぱたと滴る。
ナカが俺のものをぎゅうぎゅうに食い締めるのと同時に、首に回されていた手に力が籠って爪が肌に食い込んだ。
「〰〰〰〰ッ……♡゛♡゛♡゛」
目を白黒させ、俺の身体にぎゅうとしがみついて震える華奢な身体。本気で俺がこうしたら、手折れて破れてしまいそうなほど、余計な肉が薄い肢体と腹部。白い肌に浮いた無数の赤い痕は、俺のものだと主張するための独占欲と執着の表れで。
――どこまでもぜんぶ、彼女が俺だけを受け入れてくれている証左だ。真っ白な肢体が俺を受け入れて、高揚で真っ赤に染まっている。
「っく、はぁ……♡ ぁー、締め付け最っ高……♡ 久遠ちゃん、イっちゃったね♡ ほら、もうちょっとがんばって……俺も、一緒にイかせて……っ♡」
呼吸の暇も与えず、甘えるようにそう言ってぐりぐりと圧しつけては、漏れる吐息を食むように唇を重ねた。控えめに絡められた舌先を吸って、鼻先で爆ぜる吐息がどちらのものかわからなくなるほど、幸せで蕩けるキスを繰り返す。吐息と喘ぎ声の合間に、まともに呂律の回らなくなった甘ったるく上擦った声で、彼女が俺の名前を繰り返し呼ぶ。譫言のように、「ちひろさ、」と「すき」を繰り返されて、どんどん俺の余裕も削がれていく。
――頭が、快楽と彼女でいっぱいになる。視野が狭窄して、このまま快感を貪ること以外もうほかのことなど考えられなくなる。
「んっ、は……♡ 好きだよ、久遠ちゃん……愛してるっ♡ はぁ、ぁ……きた、もう俺もっ♡ っは、ん……イくっ……」
どくどくと精を吐き出すのと、彼女がまたひくひくと腹を震わせて果てたのはほぼ同時だった。連続でイってくたりと力の抜けてしまったその身体を抱き締めてやると、触れる腹部がまだ震えているのが腹越しに伝わってくる。
ふわふわと浮つくような感覚に身を委ねながら、労わるように額に口付ける。はぁ、ふぅ……と肩で呼吸を整えながら、彼女のとろりと蕩けきった瞳がこちらを見上げた。焦点が合っているのかどうかも曖昧なほど恍惚に蕩けた瞳が、ぼんやりと快感と現実の狭間——余韻を揺蕩っている。
「ふふ、今日もいっぱい頑張らせちゃってごめんね?身体拭いたげるから、そのまま俺に凭れてていいよ♡」
そう言って撫でてやると、すり……と無言で頭が寄せられた。嬉しげに細められた目が、言葉はなくとも彼女の感情を伝えてくれる。
「……ね、久遠ちゃんは気持ちよかった?」
――それでも、言葉でも聞きたい……なんて、欲張りな感情が湧いてきてしまうのだけど。
「ぅ……。はい……、千弘さん。きもちよかった、です……」
ちいさく応じてくれた言葉と同時に、その顔がぼっと音を立てるように真っ赤に染まる。耳朶まで赤く染まった顔を見て、思わず「ふふっ」と笑い声が漏れた。
「はぁー、もう……久遠ちゃんかぁわいー♡ 本当に幸せだなぁ……」
すりすりと鼻先を寄せて、汗を拭いながら張り付いた髪を一房二房と丁寧に剥がしてやる。初めてをもらった日も幸せだったけど、日ごとに彼女がくれる幸福と満たされる気持ちは、大きくなっていた。それだけ俺が、彼女なしではいられなくなっているということなんだろうけど。
「ちょっと落ち着いたかな。……ん、じゃあ抜くね?」
なでなでと頭を撫でながらそう言うと、ほんの僅かに物言いたげな瞳がこちらを見て……ややあってから頷かれた。もう本当にズルい子なんだから、とちいさく喉奥で笑ってから言葉を添える。
「……ふふっ、大丈夫。俺もまだ離れるのは寂しいから、綺麗にしたらぎゅうってしてあげるから♡ ……ね?」
「……ん、それなら……」
こくんと頷いてそう言った彼女をあやすように、「約束♡」と念押しをして膣内から引き抜いた。互いの鼻から、抜けるような「ン……」という声がちいさく部屋に残響する。手早くゴムを外すと、中身が溢れないように口を括って、その辺へ放った。
「あは、今日もいっぱい久遠ちゃんに絞られちゃった♡ ほんと、吸収するの早いねぇ♡」
素直に染まってくれて嬉しいよ、と言いながら彼女の身体を抱えてぼふんとベッドへ横になる。ぎし、とスプリングが軋んでちいさく弾んだ。
「千弘さんそれ、褒めてます……?」
「この上なく褒めてるよぉ、好きになった子が自分でだけ染まってダメになっていくの……喜ばない男なんているワケないでしょ♡」
愛おしくないわけがない。必死に食らいついて、快感を享受して乱れてくれるのだから。
「まっ、それに……俺だけがこの久遠ちゃんの表情を知ってるんだ〜って思ったら、すっごく嬉しくなっちゃうんだよね♡」
目を細めて、この溢れるほどの感情を教えてくれた彼女に真っ直ぐ視線を注ぐ。気まずそうに僅かに逸らされた視線を追いかけて、両頬を手で包み込んだ。諦めたように、ちらりと視線がこちらへ返される。
「……もう少しの間、定住は難しいけどさ。落ち着いたら、キミとやってみたいこと……俺、いっぱいあるんだよね」
借金取りと債務者の関係では、できなかったこと。晴れて恋人になれたとは言え、俺たちはあの地獄から這い出て――まだ逃避行の途中だ。追手が差し向けられる期間は過ぎたとはいえ、まだ気は抜けないまま……根無し草の旅を続けている。
「やってみたいこと……ですか?」
「うん♡ いっぱいあるよ、今までは取り立てのときに久遠ちゃんの家でしか逢ってなかったわけだし」
素直な身体だから、まだまだ気持ち良くなれるところも増やせるだろうし……とちいさく笑うと、彼女は「えっ……!?」と裏返った声を上げた。
「あはは、それも期待してて♡ お互いこれまで自由もなしに頑張ってきたんだもん……羽を伸ばすのもかねて、しばらくは旅行だと思って楽しもうね♡」
そう言ってもう一度、慈しむように髪を撫でてぎゅうとその体温ごと、手放すものかと抱き締めた。