怠惰

2022/04/25


――千弘さんは、とにかく甘い。際限なく甘やかしてくるので、つい甘えてしまう。ある程度は自分でやろう、と思っていても……見透かしたかのように、やっておくよと言ってしまうのだ。
しかも、こちらに罪悪感を抱かせないようにするのが上手い。「代わりにこれをお願いしていい?」と提案されてしまうと、強く突っぱねることも出来なくなってしまう。
「……むぅーん……」
千弘さんが家事をしているのを、ソファで横になりながらぼんやりと見守ってちいさく唸る。千弘さん本人に、聞こえないくらいの声量で。
普段から忙しい人ではあるのだけど、ここしばらくは撮影の本数が本当に多くて、一日仕事のことも多かったのだ。ようやくそのラッシュが落ち着いて、久々の連休が、今日からだった。昨日もなんだかんだ二本撮りだったのに、帰って来て早々に「明日はお休みだしいいよね?」と求められた――結果、今日の私は腰が立たない。……というより、起きあがろうとしたら本当にかっくりと力が抜けてしまって、以降千弘さんに絶対安静を言い渡されている。
――ええ、はい。油断してました……。どこにそんな精力が?と疑問に思うのはいつものことにしても、お仕事が忙しくなると、千弘さんは回数や量を完全にコントロールに入るので、ほとんど毎日したとしても、《《いつもよりあっさり》》終わらせる。それが比較的長期間続いていたので、完全に油断していました。はい……、だって私がイかされる回数は普段と変わりないんだもん……。気付かなくても許してほしい。そのくらい自然に調整されるんです。……と、誰に向けるでもない思考の中で、思わず言い訳をする。
せっかくのお休みなのに、千弘さんにばかり家事をさせるのは……と交渉を粘ってもみたのだけど、取り付く島すらもらえず。お天気いいからお布団干しちゃうね、と抱っこで抱えられてソファに移されたまま甲斐甲斐しく世話を焼かれている。しかもちょっぴり、世話を焼く千弘さんが楽しそうで……余計に食い下がりづらい。
「よし、こっちは片付け終わったよー♡ 久遠ちゃんは腰の調子、どーぉ?」
「……お疲れ様です、すみません千弘さん……。腰、は……うぅん、まだわかんないです……!」
痛みは元からほとんどない。ぎっくり腰とかとは違って、本当に力が上手く入らない、と言った感覚が近い。だからこそ、横になっていると自分でも治ったかどうかがわからなかった。
「うーん、そっかぁ。……一回、ちょっと身体起こしてみる?」
「……そうしてみます。千弘さんごめんなさい、手……借りてもいいですか?」
「もちろんいいよ、でも無理はしちゃダメだからね?」
「……はぁい」
そう言って差し出された手を取る。ぐぐ、と力を入れて上体を起こすと、なんとか起き上がれそうだった。
「あ、ちょっとマシになった……かな?」
「んー、でもまだちょっとつらそうだね。久遠ちゃん、起き上がるときに結構力入れたでしょ?」
図星を突かれて言葉に詰まる。くすくすと小さく笑った千弘さんが「手繋いでるんだもん、わかるよ♡」と言う。まだ動いてはいけないとの判断に、しょんぼりとして千弘さんの顔を見上げると、やさしく微笑んで空いた手で頭を撫でられた。
「今日はお家で大人しくしてよっか♡ あと、久遠ちゃんには今から俺の抱き枕になってもらっちゃいます……♡」
そう言って、するりと繋いだ手がやんわりと解かれると、膝裏と背中に腕が回されて、そのまま抱きかかえられる。
「え、え……?千弘さん……!?」
「ほーら、いい子にしてないと落ちちゃうよ?」
スタスタと迷いなく寝室への道を進まれて、混乱しながらもその首に手を回してしがみついた。
「お布団も干したばっかりだから、ふわふわで気持ちいーし♡ やることないから、お昼寝でもしよ?俺が一番ぐっすり眠れるのは、久遠ちゃんをぎゅうってしてるときだからさ♡」
ぽすんとベッドに下ろしながらそんな風に言われて、断れるはずがないのにズルいなぁと苦笑する。
「……わかりました、お昼寝……お付き合いします♡」
「やったー♡ じゃあさっそく……♡ ぎゅう〜……♡」
間髪入れずに抱きつかれて、お腹の辺りに顔を擦り寄せられる。意識してしまって、正直それどころではないのだけど。
「……ふふっ、安心して♡ 今は、手を出さないから……ね♡」
「い、今は……!?」
素っ頓狂な声を上げた私を嘲笑うかのように、千弘さんが問答無用で身体をひき倒す。背中にベッドの感触がして、ほとんど無意識に千弘さんの顔を盗み見た。
「ふふっ、期待しちゃった?今はとりあえずもう一回寝ようね♡」
ズルいなぁ、と思いながら抱き着いたままの千弘さんの頭を撫でる。ふわふわの気持ちいい髪質に、思わず目を細めた。
「……おやすみ、久遠ちゃん♡」
「……おやすみなさい、千弘さん♡」
そう挨拶を交わして、安心する温もりに――意識を手放すのは、そう時間はかからなかった。