〝愛してるよ〟

2022/06/22


「……えっ、愛してるよゲーム……ですか!?」
突然の提案に驚いたのか、彼女はややひっくり返った声を上げた。
そんなに驚かなくても、と思わずちいさく笑いを溢す。「なんでまた急に……?」と眉を下げている様子を見て、拒絶するつもりがないのを確認して、別の意味でまたふふっと笑う。
「いいからいいから……♡ ほーら、始めるよ?」
照れちゃったり笑っちゃったりした方が負けだからね、と言ってから俺は、すっと彼女と視線を合わせた。
それなりにある身長差。普段、隣に立って歩くときには、いつも彼女がにこにこと俺の顔を見上げてくれるから――そうじゃないときは、俺が彼女の目線に合わせるのが俺たちの常で。
歩幅も違えば、生い立ちや経験も違うけど……そのどれもを、彼女はただ受け入れて、その上で隣にいてくれる。無理をさせているのかなと不安になることがなかったわけではないけど、ここ最近は彼女のおかげで、俺が思っている以上に彼女が、俺のことを愛してくれていると実感できるようになった。
――言葉で言うのは簡単だけど、行動で示すのは難しいどれだけ俺のことを好きで、虜になってくれているのか。久遠ちゃんはいつも、なんてことのないように行動で返してくれる。初心で恥ずかしがり屋さんなのに、抱きしめて伝わる体臭でぐずぐずに蕩けてしまうくらい。
彼女の顔を見るだけで、胸がいっぱいになる。俺の職業ごと、すべてを〝|た《﹅》|だ《﹅》|受《﹅》|け《﹅》|入《﹅》|れ《﹅》|て《﹅》|く《﹅》|れ《﹅》|る《﹅》|こ《﹅》|と《﹅》〟の難しさを……知っているから。
「……愛してるよ♡」
――まっすぐに目を見つめて、そう告げた。
ほんの僅か、大きな瞳が揺らいで――……そっと、その両手で覆われる。
「あ、顔隠しちゃうなんてズルいなぁ……。ま、いっか……♡」
その小さな両手では、真っ赤に染まった耳まで隠せてないよと喉奥でちいさく笑ってから、俺は続く言葉を紡いだ。
「次は久遠ちゃんの番だよ?」
じぃ……と顔を隠したままの彼女の方を見て、そう言う。しばらく見つめていると、うぅ……と言うちいさな声が聞こえてきた。
なんだかんだで、俺のお願いに弱い久遠ちゃんは、こうして待っているれば自分の中で覚悟を決める時間は必要でも、最終的に応じてくれるのだ。
もう少しかなとそわそわする気持ちを抑えつけて、焦れるような気持ちごと、楽しみながら待つ。
「……ほら、キミの声で聞かせて?愛してるよ、って……♡」
ダメ押しのようにそう囁くと、そっと顔を隠していた両手が除けられた。
見るからに真っ赤な顔をした彼女が、照れて潤んだ瞳でまっすぐに俺を見つめ返す。
「……千弘さん、愛してます……♡」
ひとつ呼吸を整えてから告げられた言葉に、自分で持ちかけたゲームだと言うのにじわりと胸が暖かくなる。
「ふふっ、やっぱり久遠ちゃんに言ってもらうと、とってもしあわせな気持ちになっちゃうなぁ……♡」
そんな風に噛み締めていると、彼女がちいさく「千弘さん、今笑ってましたよね……?」と、まだ赤い顔で異議を唱えた。
「……んー、ふふ……♡ 確かに、俺も笑ったけど……キミも、ずぅっとお顔真っ赤でりんごちゃんみたいだよ?」
すり、と手を伸ばして頬を撫でると「〰〰ッ」と声にならない声を、吐息に乗せて彼女が溢す。
「久遠ちゃん、いつからこんな真っ赤なお顔になっちゃってたの?」
すりすりと、そのまま指先で何度も往復するように頬を撫でれば、彼女がわずかに身動ぎをした。困ったような顔でこちらを見上げて、言おうかどうか迷っているといった表情。
「〰〰ッ……千弘さんが、愛してるよって言ったとき、から……です……」
ややあって、観念したように彼女はそう答えてくれた。
そんな顔をしたところで、結局素直に教えてくれるところも。何度好きと言っても、嬉しそうに目を細める様子も。そのどれもがいじらしくて、大好きで。
「ふふっ、じゃあ……負けたのはキミが先だね♡ じゃーあ、負けた久遠ちゃんにはもう一回……愛してる、って言ってもらおうかなぁ……♡」
「……え!?」
ぱくぱくと無言の抗議で口を開閉した恋人の身体をそっと抱き寄せると、腕の中にぎゅうと閉じ込める。
ただそれだけでぽかぽかと温かい体温が伝わって来て、ここがやっぱり安心するなぁとしみじみと噛みしめた。――大好きで、大切な居場所。
「ねーぇ、ほら……♡」
ふにふにとそのやわらかな唇を突いて「言ってくれないの?」と耳元で甘えてみせる。
「……もう一回、だけ……ですよ……!」
また真っ赤に染まった顔で俺の目を見て、それからちいさく息を吸うと、彼女はそっと俺の耳朶に口を寄せた。
「……愛してます、千弘さん……♡」
囁かれた声と言葉に――今日はまたこの後自由にしてあげられなさそうだなぁと、桃よりも甘く蕩ける彼女の表情を想起しながら……俺は鼻先を寄せて、また笑った。